●シュタイナーの芸術論 
《芸術とは》 
・シュタイナーは、芸術を生命の根源的な活動からとらえようとした(教育も芸術活動そのもの)。 
・芸術と美的行為は人間の身体と魂にとっての最も本質的な営みそのもの(美的なもの、芸術的ものは、宗教と学問と芸術の一体性の中から生まれた)。 
・芸術は生命的なものと一体。芸術的に生を形成しなければ人は現実性を失い、死んだも同然の状態を生きることなる。 
《色彩》 
・とりわけ色彩の霊的、生命的な啓示作用に注目(色彩の世界の輝きのなかに生きること、色彩とともに生きることを芸術教育の柱に据える) 
               ⇓ 
赤(生命)、青(魂)、黄(霊)の輝きを見る。感情によって色彩を理解し、自らの感情を色彩によって表現。子どもを芸術家にする。 
《ファンタジー》 
 ・ファンタジーは、人間の成長にとってとりわけ重要な役割を果たす。 
 ・自然の成長力が子どもの身体を性的に成熟させる時期にまで至ると、その成長力は魂に流れ込み、その力がファンタジーとなって溢れる。 
 ・ファンタジーの力とは、魂的なものへと変容した自然の成長力 
 ・ファンタジーは内的には感情と意思をつうじて、外的には腕と手をつうじて発露し、宇宙を支配する神的な力を予感し詩的芸術的に活動するようになる。 
 ・古来、人はそのようにして宗教と芸術と学問の未分化の内的つながりを作ってきた。 
《改めて芸術、芸術の使命とは》 
・人間が内的な世界体験をすることによって、霊的なものを知りその意味を理解する場を提供すること(宗教と芸術と学問の未分化の内的つながり)。 
・世界を神的なものとして表現(自然の諸存在に魔法をかけることによって命を蘇らせる業=芸術)することによって、神的なものを地上にもたらすこと 
・芸術の使命は、自然への帰還。それは精神の豊かさと新しい時代の教養の高さを持って自然に帰ること。 
 つまりそれは、芸術的または美的制作行為を通じて、あるいは芸術の鑑賞(ファンタジーの世界)を通して、この地上の世界(現実の世界・自然)を新たな精神的な豊かさと教養の高さをもって帰ってくること。 
●現代における制作行為について 
 ・現代は芸術的なものに飢えている。しかし、芸術創造は息絶え絶え。 
 ・すべてがシステム化、真に創造的な制作活動は起こりえない。 
 ・ほとんどの人は芸術に親しむ時間を持たない。 
           ⇓ 
  ゆえに、人々は芸術を求めて芸術の専門ゾーン(美術館や音楽ホール)へ行ったり、オーディオ機器などで住居を芸術的空間として創出する。プロの聴衆 
・いかなる時代にも人間が芸術なしで生きたときはない。制作行為の途絶はあり得ない。なにも作らない生は無である。 
 工学的技術システムが生活を覆い尽くし、経済活動一辺倒の現代社会のなか伝統的術は途絶え、画一的な消費文化へ。 
・多数の人々は、画一化され既製品化された単相的消費生活へ。他方少数ではあるが個性的手芸的な生活環境を作ろうとする人々がある。 
《制作行為としての稽古》 
・稽古は制作のいのち。稽古の語義は、「いにしえを考える」こと。制作者にとっていにしえはいつも高きにある。 
・制作は稽古の出口でもあるが、実際は制作そのものがいつまでも稽古である。稽古の祖の出口がどこにあるかは誰も知らない。芸術作品が生まれるのは制作者の意図を超えるからである。(今道友信は、「機時」) 
《制作という営み》 
・制作そのものが自己の了見を超え、何ものかに引っ張られる。精神の覚醒の営み。 
・制作物には記号的な意味と象徴的な理念(理想)が埋め込まれている。 
・芸術的創造とは、物質世界に人間精神が思慕し希求するものを想像によって呼び起こし、形象化という制作によって刻むこと。 
・制作において、人間精神の向かうところは人間を超えたもの、自然の内奥にある根源的生命というべきもの(大いなる愛の精神)。 
●転換の時代の芸術 
・現代芸術はもはや自然的事物の再現(ミメーシス)とも、美的調和の追求とも異なる異次元の地平にいたった観がある。 
・芸術が芸術であることへの根源的懐疑に襲われている(例えば絵画におけるムンクの叫び、キュービズムの空間の歪み、カンディンスキーの直線的構図、アンディ・ウォーホールの記号反復、フランシス・ベーコンの崩れゆく肉体)。 
 芸術は現代文明を告発する槍、しかし自らが状況の中に埋没していることを悟り、わが身を守るハリネズミに(人間の内側の悲惨さ、出口なしの実存の息苦しさ、あらゆる価値から突き放されて無のなかを彷徨する魂、引き裂かれた人間関係などが現代芸術の宿命的テーマとなる)。 
・ポストモダンは新しい時代の予兆を与えはしない。新しい原義を何も持っていない。 
・ポストモダンはむしろモダンの終末宣言であり、ポストモダン芸術はモダンの「死亡通告書」。 
 |