研究年報5号の発刊にあたって
この1年は、わが国の教育・文化・学術などをめぐって、新自由主義的な政策が一段と進む中で、さまざまな問題が次々と勃発してきました。そうした中で、センター研究部は、毎月1回、定期的に開催され、それらの問題を取り上げながら、それらをどう考え、どう対応するべきかについて考えてきました。
第1に、奈良教育大学附属小学校の問題に象徴される、教育現場と教員に対する「恫喝」とも言うべき締め付けの強化という問題です。こうした動向は、今日の学校と教育の抱える困難をいっそう拡大し、教員の働き方「改革」の諸施策とは裏腹に、「教職離れ」の動きにいっそう拍車をかけるものとなっています。
第2に、今日の日本における35万人にものぼる「不登校」児童・生徒の出現と、それに対処するさまざまな対応や施策の動向について、錯綜した状況が展開されていることです。この問題は、年報の3号と4号でも取り扱ったインクルーシブ教育をめぐる問題とも重なっており、公教育とりわけ通常学級が抱える問題状況を覆い隠し、さまざまな問題を抱える子どもたちを「分断」させる方向が強まっていることに危惧の念を覚えざるを得ません。
第3に、そうした中で、昨年末に中央教育審議会に次期の学習指導要領の内容検討が諮問され、急ピッチで検討が行われていることです。しかし、そこでの検討は、現行の(歴代の)学習指導要領の教育現場の実態の根本的な総括もないままで、教育現場から教育課程の編成権と、学校の管理・運営における民主主義と、教師の働きがいとも言うべき教育実践・研究の自由を奪い、多くの子ども・保護者や市民、教員の願いとはますます乖離する方向で進められているように感じられます。
第4に、日本における学術研究の自由と平和利用を否定・変質させる、日本学術会議法案の国会での強行という問題です。これと関わっては、みやぎ教育文化研究センターでも、かつて、「小学校近現代史の授業プラン(試案)」をめぐって、新聞メディアと教育行政を巻き込む圧力を受けた苦い経緯があり、学術研究への政治の介入は教育へのそれと一体のものであると考えます。
そして第5に、これらの問題状況を前に、みやぎ教育文化研究センターとその研究部はどんな意味のある役割を果たすべきか・果たせるかという問題です。現在の研究部は、教育実践・研究経験の豊かな年配のメンバーと、若手・中堅の教育研究者のメンバーがほぼ半数ずつで構成されていますが、しかし、教育実践・研究への意欲と実力を有する現職教員・保育者が欠けています。今日の厳しい教育職場の状況からすれば仕方のないことなのかも知れませんが、子どもたちの示すさまざまな様態に寄り添い、その声なき声を聴き、教師としての存在をかけて教育実践に向かう、そうした教育者・保育者・保護者であることを希求する人たちを励ます研究成果を発信できることが、私たちに求められています。
そんな想いを込めて、ここに年報第5号をお届けします。
(みやぎ教育文化研究センター研究部長 久保 健)
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