研究年報第4号の発刊にあたって
昨年から今年にかけて、当センターの30周年の節目を意識した講演会やシンポジウムをはじめとして、各種の学習会や読書会、実践検討会などが行われてきました。それらの内容は、年4回発行している『センターつうしん』やブログなどを通じて情報発信されています。
そうした中で、研究部では今年度にようやく毎月1回の研究部会(兼学習会)が定例化し、12回の部会を重ねてきました。そしてそこでは、年報第2号および第3号から継続した課題の上に、新たな課題を加えて研究を行ってきました。その結果、今回の第4号は、幾つかの重なり合った内容から構成されることになりました。
第一に、前号の「子ども生きづらさと学校の困難にどう向き合うか」のさらなる検討、特にその背景(教育政策)の構造的分析です。これについては、巻頭の総括的論稿をはじめ、学習指導要領が依拠する「新学力観」、「資質・能力論」、「OECDのコンピテンシー論」等の批判的検討、また、発達障害・学習障害を抱える子どもたちが少なからずいる学級でのインクルーシブな教育のあり方をめぐる昨年の窪島務講演の内容が掲載されています。
第二に、私たちがめざす、身の回りの出来事と世界で起きている事態とをつなげて捉え、「自分事」として関心を持ち、足元で行動することが世界を変える運動につながっていることを見通して行動する、新しい市民社会の主体者としての子どもたちを育成するための、教科と特別(教育)活動、学習の指導と行動の指導のバランスのとれた教育課程のあり方の検討です。ここには、「部活動の地域移行」問題をめぐる継続的研究報告や、当センターの関係者も関わって開催された宮城革新懇のシンポジウムの内容の報告などが掲載されています。
第三に、この間、学校教育の大きな困難に直面するところから、学校(公教育)の外に教育・子育ての希望を託そうとする「新しい」「オルタナティブナな」学校や子育ての場がクローズアップされてきています。それはそれで大切な試みだとは思うのですが、同時に他方で、政府が「教育の機会均等」や「学びの多様化学校」などの謳い文句の下で、実は、不登校を余儀なくされている子どもや障害を持つ子どもたちを、「特例校」や「インクルーシブ教育」の中に差別化する教育を進めようとしている中では、学校(公教育)特に通常学級の教育のあり方をこそ問い直さなくてはならないのではないかと思うのです。
第四に、何よりも、そうした困難な状況の中で子どもと真正面から向き合って取り組まれている教育実践を取り上げ、それを検討・共有することを大切にすることこそが、当センターの最も重要な任務であり仕事だと考えています。この点でも、今号に幾つかの貴重な実践の報告を載せることができました。
またその他、奈良教育大学附属小学校への攻撃と教育実践の自由についての批判的検討、そして、東日本大震災と津波の被害の中で高校生の生きたかった思いと家族の嘆き・悲しみについての調査報告なども掲載されています。この小冊子が、子育て・教育を考える希望への一助となることを願って発刊のことばとします。
(みやぎ教育文化研究センター研究部長 久保 健)
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