私たちは学問と教育の自由を守り、平和を希求する立場から 「日本学術会議法案」の撤回を強く求めます
政府は、「国の特別の機関」としてきたこれまでの日本学術会議を廃止し、国から独立した法人格を有する日本学術会議を新設する法案を、まともな審議もないまま衆議院会議で可決し、目下参議院で審議をしています。私たちは、このような法案を、以下の理由から強く反対し、廃案となるよう切に望みます。
現行の日本学術会議法(1947年の教育基本法制定の翌年に制定され、新憲法の精神に添って共に作成された)は、その前文で「科学が文化国家の基礎であるという確信に立って、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命とし、ここに設立される」とし、その設立の目的と使命を明確にしています。そして翌1949年の第1回総会において、最初に「これまでわが国の科学者がとりきたつた態度について強く反省し」との文言を付し、先の前文の決意表明を宣言しています。
したがって現行の日本学術会議は、戦時下における学問研究が戦時体制に組み込まれ、科学者も政治に従属し、戦争に動員されたことへの深い歴史的反省と自覚のもと、学問研究の平和的貢献(軍事目的のための科学研究を行わないこと)を表明するとともに、「学問の自由」を定めた日本国憲法の趣旨に基づき、政府から独立した自律的組織としてのナショナル・アカデミーとして運営されてきたのです。
しかし現在審議されている法案では、この前文がすっかり削除される一方で、人事面や活動面において現行法にない国や外部の関与・監督が幾重にも盛り込まれるものとなっており、学問の平和的貢献を謳い、学問の自由のもとで運営されてきたこれまでのナショナル・アカデミーとしての日本学術会議を根本から否定・変質する恐れのあるものとなっています。
今日の政府は、「国を守る」という大義名分でもって軍事拡大を意図し、現行の理念を否定し、削除しようとしているのです。このことは、昨年、ノーベル平和賞に輝いた日本原水爆被害者団体協議会の運動とも矛盾するものです。
また、かつて、私たち研究センターが取り組んだ「小学校近現代史の授業プラン(試案)」は、ある新聞メデイアによる不当な報道(1997年)をきっかけにして、当時の教育行政をも巻き込む形で圧力を受け、教育実践に活かされなかった苦い経緯があります。その後、日本の歴史教科書は、検定で承認され記述されていた歴史的事実が、その時々の政府の思惑からから削除や改変を余儀なくされてきた事実もあります。近年では、これもある新聞メデイアによる不当な指摘がきっかけで、時の政府(文部科学省)も関与す問題(奈良教育大学付属小学校の教育実践を学習指導要領に準拠していないという不当な指摘や人事的介入)が生じたりもしています。これらも学問・教育への不当な政治的介入の動向であると考えられます。
いま、世界の政治情勢は、人間らしい会話にもとづき融和を図っていくのではなく、戦争という暴力で支配し合い、何十万という尊い子どもを含む人命を奪い合い、人類の創造してきた貴重な環境をも破壊し合う事態をもたらしています。それを抑止するにはより強力な軍事力の備えが不可欠とする価値観で政治が動いています。当研究センターは、こうした価値観にはどうしても組みすることはできません。学問や教育がこうした価値観に同意できない立場から、私たちはこの法案の廃案を強く訴えます。
みやぎ教育文化研究センター運営委員会